ジョン・スミスのまともな投資日記

「普通の人」ジョン・スミスが、「そこそこ儲ける」ための方法を試行錯誤する日記です。

【IPO】ソフトバンクの上場はなぜ「大失敗」したのか? どこで気づくべきだったのか? 何を学ぶべきか?

 本日12/19、ソフトバンク(9434)が上場しました。公募価格1500円に対して、初値は1463円で、一枚3700円の損失。ただ、その後すぐに特別売り気配となり、一時1344円まで下げました。その後も、1400円台を回復するのに苦労している状態です。もちろん、もう少し日がたてば、ファンドの組み入れや市況回復で上向いてくる可能性はあります。ただ、この「失敗できない」IPOでの公募割れは、IPOとしては失敗、というか大失敗と言えるでしょう。

 今回はこの「大失敗」の原因を考察したいと思います。とはいっても、それほど難しいことではありません。失敗(公募割れ)の公式ははっきりしています。

 「セカンダリ買い<公募組の短期売り」

 株価は少なくとも短期的には需給で決まります。売り圧力が大きくて買い圧力がが小さいほど株価は下落します。IPOでも全く同じです。今回の結果は単純に、売りが多くて買いが少なかっただけです。陰謀とかではないです。

ちなみにスミスは公募前からこんなことを言っていたので、大体予想通りになったと言えます(この時はファーウェイ問題とか通信障害とか市況悪化とかを加味していないので、公募価格前後と楽観的に見ていましたが…)

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  1.簡単な事実の確認

 まず、買いが少なかったという事実の確認から。以下は、8:55頃の売買発注(=板)の状況です。

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 1463円の指値で、1億6千万株という、明らかに個人には動かせない金額の買いが入っているのが分かります。これは、証券会社によるシンジケートカバー取引、いわゆる「誠意」、もっと簡単に言えば「買い支え」です。8時の開始時点から、1000万株単位で誰か(=ほぼ100%幹事団)が順次買いを追加し、1億6000万株にまで増加しました。幹事団が買い支えられるのはOA(オーバーアロットメント)の分が限界なので、最大で約1億6000万株となり、ちょうど一致します(なぜ1463円なのか等の説明は省略します)。
 つまり幹事団は全力で「誠意」を尽くしました。

 ところで、この1億6000万株の買い(「誠意」)を除くと、1463円以上の買いは(8:59時点で)何と800万株未満でした。一方売りは1億4500万株。つまり、「誠意」を除いた「実態」としての買いは、売りに対して非常に小さかったと言えます。

 このことから、「セカンダリ買い<公募組の短期売り」という公式が確認できます。

 つまり、問題の本質は「売り圧力が大きく」「買い圧力が小さかった」という二つに分解できます。それぞれの理由を考えてみましょう。

 

 

2.なぜ売りが多かったのか、なぜ買いが少なかったのか?

2.1 なぜ売り圧力が強かったのか?

2.1.1 「個人投資家へのバラマキ」のリスクが顕在化したから

 今回のソフトバンク上場の最大の問題点は、「個人投資家をターゲットにする」という作戦そのものにあると思います。

 今回、配分の9割が個人投資家に割り当てられたといわれています。スミスが最初からずっと気がかりにしていたのは、日本郵政の時と違って、裁量配分の傾向が強い対面証券が幹事団から外されたということです。いちよし証券、丸三証券、立花証券、極東証券、エース証券といった証券会社がいませんでした

 こうした中小証券あるいは地場証券は、良くも悪くも「古いタイプの個人投資家」、比較的長いスパンで株を運用する投資家が多い証券会社であると思います。こうした証券会社で配分をもらった人々は、おそらくそれなりに長期での保有スタンスを持っていたことでしょう。実際、日本郵政の時もそこそこ安定した価格形成に成功しました。
 こうした証券会社を外したということは、最初から「長期で安定して保有してくれそうな人たちを確保するという気がなかった」、つまり「安定した価格形成」を重視しなかったという、ソフトバンク側の「作戦ミス」であると思われます地場証券もみんな参加してまさに「オールジャパン」態勢だった日本郵政の時とは対照的です。

※この点については先述の記事で指摘していた通りです。 

 逆に、SBI証券主幹事入りに象徴されるように、ネット証券を通して「新しいタイプの個人投資家」、つまり主婦層・株式投資初心者へ配られました。こうした「新しいタイプの個人投資家」は、まさにSBI証券の顧客がそうですが、明らかに短期的売買の傾向があります(例えば、SBIが主幹事のPOの結果などを見れば歴然)。また、新聞広告、ネット広告、テレビCMなど、ありとあらゆる手段を用いて、この「新しいタイプの個人投資家」への購入が促されました。

 一方、裁量配分で配られるような「古いタイプの個人投資家」には、あまり人気がなかったらしく、結局公募申込の倍率は1.1倍程度だったといわれています。こうしたギリギリの状況は、「お付き合い」で買わされた人が多くいたことを示唆しています。彼らは元々強く買いたいと思っていたわけではないので、日和見的になるでしょう

 こうした状況から、ソフトバンクの公募株は、「短期売り」を辞さない個人投資家たちの手に渡ったと考えられます。つまり「市況やムードが悪くなればすぐに売られる」という状況ができていました。これが、公募組売りが拡大した根本的原因であると考えられます。つまり、個人投資家にばら撒いたことで、初値が不安定になるというリスクを抱え、市況悪化の中でものの見事にそのリスクが顕在化した、ということなのではないでしょうか

 

2.1.2 諸々の不安要素(ファーウェイ問題、通信障害、市況悪化、etc...)

 これについては特筆すべきことはありません。これほどの逆風の中での上場になるとは、ほぼ誰も予想していなかったと思います。スミス自身もそうでした。
 ただ、2.1.1で述べたような不安定性に、不安要素が一気に加わったことで、相乗効果で売り圧力が大きくなったと考えられます。

 

2.2 なぜ買い圧力が小さかったのか?

2.2.1 公募プレミアムがない(欲しい人はみんな買えた)

 最近のIPOでは公募株数に対して申込数が上回るのが普通ですので、抽選が行われます。しかしソフトバンクの場合、主要証券会社で抽選が行われた(落選があった)のは「マネックス・岡三・岡三オンライン」だけで、「野村・大和・SMBC・みずほ・SBI・東海東京」では全員補欠当選以上(全プレ)、三菱UFJMSでは全員当選(完全全プレ)になった模様です。SBIは申し込んだ分だけ当選できたようですので、実質的に完全全プレに近いです。

 つまり、1社につき100株ないし200株でよければ抽選枠でほぼ確実にもらえたいうことで、公募プレミアムがありませんでした。

※この辺りのいきさつも公募前にまとめました。

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 また、公募申込倍率1.1倍という状況から、裁量配分に関してもほとんど「買いたい分だけ買えた」ということになります。

 したがって、1500円で欲しい個人投資家はみんな公募前に買ってしまいました。それだと、上場後にセカンダリで1500円より上で買う個人投資家は極めて少数になると考えられます。初値が上がるのは「誰か」が買うからです。今回、セカンダリの買い手は極めて少なかったと言えます。

 

2.2.2 市況が悪すぎた(長期参加者不在)

 今回ソフトバンクにとって最も不運だったのは、市況があまりにも悪かったということです。米国株が急減速したことで、市場参加者の注目は日本時間12/20早朝のFMOCの利上げ発表に注目が集まっていました。そしてクリスマス休暇も相俟って、リスクオフムードが極めて強い状況で軟調な状態が続いていたため、長期保有スタンスの参加者は少ない状況でした
 ソフトバンクの場合、あまりにも規模が大きいので投機的に値段が上げるのは不可能ですから、純粋な投資対象として、長期的な買いがどれくらい集まるのかが重要だったと思います。それを考えると、今の市場の環境は最悪であったと言えるでしょう。

 これほどの規模になれば、ファンドによる組み入れの購入などもあるのですが、それは初値形成直後ではなく、いくらか経って株価が安定してから行われます。

 こうした状況のため、買いが僅か800万株(普通のIPOなら十分多いけど)しか集まらなかったのでしょう。

 

3.どこで異変に気付くべきだったのか?

3.1 そもそも:「靴磨きの少年」のエピソード(11月中旬)

  一般的に言って(スミス自身もその一人ですが)小口の個人投資家は大した金額を動かせませんし、判断能力も機関に勝てるわけがありません。小口の個人投資家は(自分もその一人だから敢えて言いますが)「カモ」です。

 スミスはソフトバンクが「個人投資家」に配ると言い始めた時に何か違和感を感じていました。

 「靴磨きの少年」のエピソードをご存知でしょうか。アメリカのある投資家が、靴磨きの少年が株の購入を進めてきたのを聞いて、保有株を売り払い、その後株価は大暴落した(1929年)、というものです。

 このエピソードの意味するところは、「靴磨きの少年」すら参加するようになった「儲け話」は、崩壊寸前であるということだと思います。つまり、末端に位置するような人すら「儲かる」と思って参加し始める時、もうバブルははじける寸前だということでしょう。ねずみ講をイメージすると分かりやすいかもしれませんね。

 もちろん靴磨きの少年とは違う点もありますが、「誰でも参加できて、誰もが知っている儲け話」という最も本質的な点は共通していると思います。 この時点ではスミスもまだ「違和感」程度だったのですが、話がうますぎるのは怪しいと思うべきでした。 

 

3.2 幹事団が発表されたとき(11月中旬)

  若干時間軸が前後しますが、この時にも何か違和感を感じました。

 その違和感の正体は、上で述べた通りだったのですが、スミス自身が気づくのはもう少し後(12/4の記事)の話。

 

3.3 公募プレミアムがないことが判明した時(11月下旬、公募申込前)

 スミスはIPO当選確率予測職人ですので、予測の過程で、ソフトバンクIPOの配分枚数がどれほど巨大であるのか、そしてほとんどの証券会社で全プレになると計算されるということに気づきます。ここで、スミスは不参加を決めました

  公募プレミアムがないということは、「抽選は一人一票」という個人投資家の唯一のアドバンテージが生かされないということ、個人投資家を守ってくれるものは何もないということを意味します
 個人投資家がIPOで儲けることができるのは、「抽選は一人一票」だからです。どんな大口投資家でも、「抽選は一人一票」です。もちろんそのせいで当たりにくいというデメリットはあるのですが、そのおかげで利益が守られているともいえるのです。

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 日本郵政の時と比較したのですが、明らかに公募株数が多すぎました。日本郵政の時も全プレはありましたが、ソフトバンクはあまりにも規模が大きく、ほとんどの主幹事で全プレになるだろうという計算結果でした。ここで、スミスはこのIPOが、従来の超巨大IPOと比較しても異常な上に、当たっても大して儲からないと感じたので、SBIのチャレンジポイントもあきらめて完全撤退を決めました。

 

 3.4 通信障害、ファーウェイ問題などが明らかになった時(公募申込後~購入申込前)

 参加者に個人投資家が多い以上、日和見だった人が不安を感じると売り圧力が強くなることは明白でした。また、SBIの前代未聞の大量当選を連発したことで、違和感を感じた人も多かったようです。
 したがって、購入申込前に異変を察知して、購入を辞退した人は、十分間に合ったと言えます。

 

3.5 地合い最悪の中での上場になることが分かった時(上場前日夜)

 前々日~前日にかけて、日本株は大幅に下落し、逆風満帆での上場になることが確定しました。微妙IPOは地合いが悪いと沈没することを知っていた人は、初値撤退を決断できたかもしれません。

   ※1464円ではなく、1463円の間違いでした。

 

3.6 買いが全く入っていないことに気づいたとき(初値形成直前)

  最終的に、1億4000万株の出来高で初値を形成した直後、シンジケートカバーは消え、株価は一気に下落、連続気配・特別売り気配をつけて1400円を割りました。

 もちろんこの後市況回復とともに1500円以上に戻すということは十分に考えられますが、それはもはやスミスの管轄領域ではありません。ソフトバンクの公募割れは、IPOとしては大失敗以外の何ものでもありません。

 

 

4. ソフトバンクのIPOから何を学ぶべきか?

 ソフトバンクはいろいろと異例づくめの上場で、スミス自身もかなり勉強になりました。スミス自身強く心にとめたのは、以下の4点です。

4.1 誰かが損するから誰かが儲かる、誰かが買うから誰かが売れる

 当たり前のことなのですが、初値が高く売れるのは、セカンダリで誰かが買ってくれるからです。高く買うということは、機会損失も考えれば、買い手は損をしています。
 このことをこれほど思い知らされたIPOは他にありませんでした。買い手不在のIPOは必ず沈没する運命にあります。

 

4.2 個人投資家は「カモ」だと知る

 靴磨きの少年もそうですけど、特別な才能のない99%の個人・零細投資家は、大口・機関投資家には勝てません。機関投資家は情報収集だけでも専属の人がいますし、トレーダーの人は一日中仕事として取り組んでいます。個人投資家は少なくとも情報勝負では絶対に勝てません(インサイダー取引とかいう反則技はできるが)。
 個人投資家は、「小口でも参加できる(例えば東証2部とか)、小遣い稼ぎができる(IPO抽選は小遣い稼ぎです)」「抽選は1人1票」という強みがあります。このアドバンテージを生かすべきです。まともに勝負してはいけません。

 その意味で「個人投資家に配分する」と宣言されたソフトバンクのIPOは、疑ってしかるべきだったと言えると思います。

 

4.3 IPO株のバラマキは初値の安定形成を阻害する

 IPO株を短期参加者に握らせるリスクの大きさが、今回のIPOではっきり表れたといえるのではないでしょうか。IPOはみんなが上がると思っている、「お祭り」であるうちはそれでいいのですが、「お祭り」が終わった時、最後に踊っている人が損をします。今回は初値でそれが現れたということでしょう。IPOの本質は「投機」です。

 ただ、スミス自身も参加しておいて言うのも何ですが、市場参加者トータルの利益を考えるならば、とりわけ大型のIPOは、投機ではなくもっと安定した初値形成を目的として行われるべきなのではないかと個人的には思っています。

 長期でホールドする株主がいるからこそ、株価は安定するはずです。最近のIPOは公募プレミアムで儲ける方法と化していますので、多くの人があわよくばさっさと売り抜けてしまおうと考えています。スミスの個人的な印象ですが、ソフトバンクに限らず、最近は短期的なIPO参加者が増えて長期ホルダーが減り、値動きが不安定化しているようにも思われます
 IPOにはリスクがあるということを、今一度確認すべきだと思います。

 

4.4 「自ら考える」ことは本当に重要である(大手サイトは意外とあてにならない)

 スミスはいろいろなサイトや意見を見聞きしましたが、とりわけこういうイレギュラー案件に対して、正常な判断を下すことができる人は極めて少ないのだということを痛感しました。よその人は当てにしちゃだめなんですね。「絶対に上がる」神話なんてないんです。人は思い込みで行動します。

 スミスはやっぱり独自路線で行こう、という思いをますます強くしたIPOでした。

 

 

 

今回はこれくらいで。それでは、また。

                                J.S.